たとえば,私と君がいたとしよう。二人の間には限られた時間しかなくて,限られた言葉しかなくて,限られた接触しかない。なら,その限られたやり取りに膨大な情報を圧縮して送る。無限に圧縮したキスが,100万年の時を経るよりも,多くの想いとも,なる。それが,圧縮の哲学。
マイクロテクノロジ社は,フラクタルの性質を利用し,デジタルの情報を圧縮・復元できる方式を開発した。圧縮率は約6割で,圧縮を繰り返すことで情報量を限りなく少なくすることができ,復元率100%で,劣化もない。
できる限りたくさんの情報を届けるには,荷を小さくするしかない。映像と音声を伝えるにも同様。だが,大量の情報を小さくするには,分割するしかない。分割しても,やっぱり総量は一緒。そこで,圧縮,となる。ファイル内の同一箇所をひとつにまとめたり,情報の並びに規則性を与えることでその部分の容量を削ったり…。圧縮の理論は,考えれば考えるほど,面白い。ファイルを如何に小さくするかは,人生に匹敵する大問題だ。特に,ワイヤーの太さが限られているワイヤードでは。
現在のウェブの起源とも云うべきヴァニヴァー・ブッシュのメメックス(過去記事)は,マイクロフィルムの中にばく大な情報を圧縮して詰め込み,それに迅速にアクセスするシステムだった。限りなく情報を圧縮することは,常に手の平にある情報を増やすこと,自分の脳を拡大させることと同義,記憶を拡大させることと同じだ。JPEGもGIFもPNGもMP3もMPEGも,ワイヤードの情報はすべて圧縮の過程を経ている。より完全な圧縮が,この世界を完ぺきなものとする。
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